試験項目と測定方法

MEASUREMENT

規格の国際整合化について

ポリスチレン樹脂を含む工業製品の規格には、我が国の日本工業規格(JIS規格)の他、米国 のASTM規格やドイツのDIN規格等多数の各国規格が存在し、貿易の技術的障害となっていました。1995年1月、この問題の解決に向けて、WTO(世界貿易機構)/TBT協定(貿易 の技術的障害に関する協定)が発効し、各加盟国は国内規格を国際規格であるISO(国際標準化機構)規格に整合化する必要があります。

PSJ-ポリスチレンの規格

PSジャパンは、ASTM規格および旧JIS規格測定を行って参りましたが、1999年10月1日に原則としてISO規格(翻訳およびISO整合化JIS規格)へ移行致しました。

主な測定項目の規格の対応関係

ISO規格が従来のASTM規格やJIS規格と大きく異なる点は、独立の測定機関で測定された値を直接比較できる事を目指して、試験片の作成条件に細かな規定や推奨を盛り込んでいる点と、比較のための測定項目の規格を設けた点、樹脂毎に測定条件の詳細を規定もしくは推奨した点が挙げられます。
このホームページに収録された主な測定値は下記の条件で得られました。

試験項目 ポリスチレンの樹脂規格を参考にシングルポイント規格より選択
試験片 多目的試験片(ISO3167typeA)
試験片作成条件 ISO294-1に準じ、かつ石油化学協会ポリスチレン専門部会の推奨した条件により作成
試験条件 PS及びPS-Iの樹脂規格の規定または推奨する条件に従って試験を行い、代表的試験結果を記載

従来使用してまいりました規格との対応関係を「試験規格対応表」にまとめました。
それぞれの試験項目の解説を見るには、項目名をクリックしてください。

試験規格対応表

  ISO 新JIS 旧JIS ASTM
ISO 10350:1993 K7140:1995    
ISO 3167:1993 K7139:1995    
ISO 294-1:1995 K7152:1995    
ISO 1622-2:1995 K6923ー2:1997 K6871  
ISO 2897-2:1990 K9626-2:1997 K6871  
ISO 1133:1997 K7210-1999   D1238
ISO 527-1:1993 K7161:1994 K7113 D638
ISO 527-2:1993 K7162:1994 K7113 D638
ISO 178:1993 K7171:1994 K7203 D790
ISO 179:1993 K7111:1996   D256
ISO 180:1992 K7110:1999   D256
ISO 75-2:1993 K7191-1,2:1996 K7207 D648
ISO 306:1994 K7206:1999   D1525
密度・比重 ISO 1183:1987 K7112:1999   D792
試験項目
複数の樹脂メーカーから提供されるカタログ・技術資料等に記載される項目を共通化して、横断的に比較できる事を狙い、共通的な試験項目を規定したのがISO 10350です。横断的比較が容易となるよう、一つの試験項目につき一つの数値が決まる項目が集められています。
試験片およびその作成条件
試験片の形状を規定したのがISO 3167で、その作成条件を樹脂ごとに規定したのがISO 294-1です。
ポリマー成形材料は、同一の形状でもその作成条件によりポリマー鎖の配向状態、残留歪み(応力)、結晶性ポリマーでは結晶化度、多相系ポリマーアロイではモルフォロジーなどが変化し、物性値もこれに伴って変化します。旧JISやASTMの試験法では、試験片の形状は規定されていますが、作成条件が規定されていないため、同一試験方法であっても試験機関によって異なる値が出てしまう事がありました。また、試験項目により異なる試験片を使用するために、複数の項目間(例えば弾性率と衝撃強さ)のバランスの判断に問題が生じました。
ISOではシングルポイントのほとんどの項目に使用できる多目的試験片の規格と成形条件の規格(および推奨条件)を設けることにより、これらの問題を軽減しています。
弊社では、お客様が他社材料と弊社材料の比較が容易にできるよう、上記推奨条件を全面的に採用しております。従って国内の他のポリスチレンメーカーから提供されるISO(翻訳・整合化JIS)のシングルポイント項目については直接比較が可能になるものと期待できます。一方で、海外メーカーのポリスチレンとの比較はISO間であっても注意が必要です。他樹脂との比較では、成形条件のみでなく、試験条件も異なる場合がありますので、ご注意ください。
樹脂規格
試験方法の詳細は各樹脂ごとの規格によって定められています。ポリスチレンについては、GPPSはPS規格、HIPSはPS-I規格と、それぞれ独立して規定されており、試験方法にも若干の差異があります。
MFR・MVR
溶融成形時の流動性の指標です。一定温度、一定荷重(近似的に一定圧力)の元で一定時間にオリフィスを通過する樹脂の溶融体積(MVR)または重量(MFR)を測定し(A法)、10分間当たりに換算して表記します。逆に一定体積の溶融樹脂がオリフィスを通過する時間を計測する方法(B法)もありますが、両者はほぼ同一の結果を与えます。
樹脂毎に測定温度と荷重が定められており、ポリスチレンは200℃、5kg荷重(H条件)で測定します。 AS,ABSなどとは測定条件が異なるので直接比較はできません。
MFRとMVRは、MFR = MVR × 溶融密度 の関係にあり、通常のGPPS、HIPSの範疇では溶融密度はほぼ一定であるため、同等の指標となります。難燃グレードは、グレード毎に溶融密度が有意に異なるので注意を要します。非難燃グレードから難燃グレードへの転換の場合などは、MVRがより良い指標となります。
MFRおよびMVRは、近似的には溶融粘度の逆数に比例します。一定荷重下での試験ですから、高粘度の材料は低せん断速度で、低粘度の材料は高せん断速度で見ている事になります。PSJ-ポリスチレンの幾つかのグレードの溶融粘度の温度・せん断速度依存性のマルチポイントデータはこちらの流動特性:せん断速度とせん断粘度(87KB) からご参照ください。

旧JIS、ASTMとの違い
温度、荷重が同じであれば、旧JIS、ASTMともほぼ近い絶対値で高い相関性があります。いずれもポリスチレンについては200℃、5kg荷重が推奨されていますので、幾つかの例外を除いてほぼ同一とみなせます。

引張り試験
試験片を比較的遅い一定の速度で引っ張って変形させ、変形に抵抗する力を計測します。
分子量が高いほど強く、可塑化成分が多いほど弱くなるために、GPPSでは流動性(MFR・MVR)や 耐熱性と相反しますので、このバランスでの比較が重要です。HIPSでは、この他にゴム粒子のサイズと量の影響を強く受けるので、衝撃強さとのバランスも重要です。
GPPSとHIPSでは試験条件(引張り速度)が異なるという点がASTM法と大きく異なります。
曲げ試験
曲げ弾性率は、引張弾性率(ヤング率)の近似値と位置づけられ、将来消される可能性があります。 ASTM法とはかなり良好な比例関係が認められます。
衝撃試験
シャルピー衝撃試験およびアイゾット衝撃試験は、いずれも試験片を架台に支持し、一定の運動エネルギー(重さと速度)のハンマーで打撃して完全破壊させ、ハンマーの減速分が試験片の破壊によって吸収されたエネルギーであるとして算出します。破壊しにくい樹脂では切り欠き(ノッチ)を入れて応力集中させ、そこから完全破壊させます。HIPSについてはノッチを入れないと完全破壊に至らないため、ノッチありのみを測定しています。シャルピーとアイゾットは同一の試験片を用いる限りほぼ同一の値を与えますが、 アイゾット衝撃試験では試験片を片持ちで支持するために締め付け力が誤差要因となり、繰り返し再現性が低いとされています。このためシングルポイントの規格ではシャルピー衝撃値が採用され、アイゾット衝撃値は外されています。

旧JIS、ASTMとの違い
従来のASTMや旧JISのではアイゾット衝撃が採用されてきましたが、アイゾット衝撃試験とシャルピー衝撃試験の本来の値そのものの差は支配的ではなく、むしろ試験片の形状、作成条件が異なることが要因となり、結果の数値にはかなりの差が見られます。この差の程度はグレードによっても異なるため、数値の大小関係が逆転しているグレードの組み合わせもあります。

耐熱性試験
樹脂が高温に晒された際に柔らかくなる温度を試験する方法です。シングルポイントの規格には、ガラス転移温度と荷重たわみ試験が採用されています。ガラス転移温度の測定は、無荷重下で熱のみを加えるため、純粋に熱による相変化を評価します。
ポリスチレンの耐熱試験としては、プラスチック全般に広く用いられている加熱たわみ温度と、スチレン系樹脂に伝統的に用いられてきたビカット軟化温度が採用されています。
荷重たわみ温度
荷重たわみ試験では、荷重が存在するために機械的性質が強く影響します。弾性率の低い材料は室温でたわみやすいのと同様に加熱条件下でもたわみやすいため、同程度のガラス転移温度を有する弾性率の高い材料より低い温度で規定のたわみに達してしまいます。
ASTMでは試験片をエッジワイズに使用するのに対し、ISO法ではフラットワイズで使用します。曲げ方向の厚みが薄いため、若干低めの温度で規定のたわみに達します。
ビカット軟化温度
試験片に細い円柱状(1mmφ)の圧子を載せて荷重を掛けた状態で一定速度で昇温させます。試験片に圧子が1mm沈み込んだ時点の温度がビカット軟化温度です。ISOには、荷重と昇温速度で4つの試験条件があります。ポリスチレンについては5kg荷重50℃/Hrの昇温速度の条件で測定するように樹脂規格で規定されています。
ASTMは1kg荷重に対し、ISOとJISは5kg荷重であり、絶対値が低くなると共に、弾性率の寄与が大きくなります。ASTMのビカット軟化温度はほぼガラス転移温度と相関するのに対し、ISO・JISのビカット軟化温度は荷重たわみ温度に近い要素が入った挙動を示します。