1.マスバランス方式が求められる理由
マスバランス方式とは何か
マスバランス方式とは、再生原料やバイオマス原料といった持続可能な原料を、既存の製造工程に化石燃料由来の原料と「混合」して使用し、その投入量に応じて環境価値(再生材利用量など)を製品に割り当てる管理手法のことです。
プラスチックを完全に分離管理して製造するには、多くの場合で新たな設備や工程変更が必要となり、技術的・経済的なハードルが高くなります。マスバランス方式は、こうした制約をクリアしながら、既存設備をそのまま活用して、幅広い樹脂に持続可能な原料を導入できる点が大きな利点です。
マスバランス方式とその類似の手法は、パーム油(RSPO認証)、カカオ豆(国際フェアトレード認証)、鋼材(グリーンスチール)等、多様な業界で適用されています。
※ 例えば、5tのバイオマス原料と、95tの石油燃料由来原料を混ぜ合わせた原料を投入し、100tの合成樹脂(製品)を作った場合、配合率の観点で見ると、この製品はバイオマス比率5%ということができます。これに対しマスバランス方式では、その名前の通り原料の「投入と払出」を量の単位でバランスさせることで、その正確性を担保する仕組みです。上記の例でいうと、この100tの製品のうち「100%バイオマス原料由来の製品を5t」として割り当て、残りは「100%石油燃料由来の製品を95t」として割り当てることができます。
マスバランス方式の社会実装が進む背景
プラスチック製造においてマスバランス方式が注目される背景には、セグリゲーション(原料を物理的に分離管理する製造手法)が適用できる樹脂の範囲が極めて限定的であるという現実があります。
現時点で、バイオマス原料や再生原料をセグリゲーションで安定的に製造できるのは、極一部のポリエチレン(PE)等に限られています。
一方、ポリスチレン(PS)やABS樹脂、PET樹脂、その他多くの機能性樹脂においては、既存設備や製造プロセスの制約から、原料を完全に分離して生産することは困難です。
多くのプラスチックではセグリゲーションによる製造が現実的ではない中、持続可能原料の利用拡大を進めるためには、「混合」を前提とした管理手法を採用せざるを得ません。マスバランス方式は、原料が物理的に混合された状態であっても、投入量に基づいて環境価値を適切に配分できる点に特徴があります。
これは、幅広い樹脂領域において持続可能原料の導入を可能にする、プラスチック製造の現実に即した仕組みといえます。
| 製造方式 | 対象 | 備考 |
| セグリゲーション方式 | PE、PP※(バイオエタノール由来) | バイオマスPEで実績あり |
| マスバランス方式 | ほぼ全樹脂 | 混合前提でバイオマス品、ケミカルリサイクル品の何れにも適用可能 |
※ PPは2025年12月時点で商業運転有無は確認できていない。
ケミカルリサイクル材・バイオマス材との関係とマスバランス方式
ケミカルリサイクルには、使用済みプラスチックを合成ガスへ転換するガス化、加熱分解して油分を得る油化、ポリマーを化学的に分解してモノマーへ戻すモノマー化といった手法があります。これらはいずれも、再生されたガス、油、モノマーを、原油やナフサ、既存の化成品原料と同一の製造プロセスに投入することを前提としており、工程上、石油由来原料との混合は避けられません。そのため、最終的に製造される樹脂製品において、ケミカルリサイクル由来原料を物理的に識別することは困難です。
また、バイオマス材として主に利用されているのは、動植物油などの再生可能資源から製造されるバイオマスナフサを原料とするプラスチックです。バイオマスナフサは、安定供給や品質の均一性を確保するため、石油由来ナフサと混合された状態でクラッカーなどの既存設備に投入されることが一般的であり、こちらも原料の物理的分離管理は現実的ではありません。
ケミカルリサイクル由来原料とバイオマス由来原料を使用したプラスチック製造フロー
※ 重量換算
原油処理量 約1.30億~1.37億t
石油化学用ナフサ出荷量 約 2,200~2,540万t
このように、ケミカルリサイクル材およびバイオマス材はいずれも、製造工程上、化石燃料由来の原料との混合を避けることが困難です。特にポリスチレン(PS)やABS樹脂、PET樹脂、その他多くの機能性樹脂では、品質要求や工程の複雑さからセグリゲーションが成立しにくく、マスバランス方式が持続可能原料の導入を可能にする現実的な手法として重要な役割を果たしています。
なぜマスバランス方式には第三者認証が不可欠なのか?
マスバランス方式は、ケミカルリサイクル材やバイオマス材を既存の製造プロセスに導入できる現実的な手法ですが、その前提には原料の混合があります。このため、製品に割り当てられる環境価値が適切に管理されていなければ、実際の投入量と主張内容との間に乖離が生じるおそれがあります。企業が独自に管理・主張するだけでは、その妥当性を外部から判断することは困難です。
そこで重要となるのが、第三者認証による客観的な検証です。第三者認証では、原料の調達から製造、販売に至るまでのプロセスが一定のルールに基づいて管理されているかを外部機関が確認します。これにより、マスバランス方式に基づく環境価値の割り当てが、恣意的ではなく、再現性と一貫性を持って行われていることが担保されます。
マスバランス方式を社会的に成立させるためには、「混合されているからこそ、検証されている」という状態をつくることが不可欠であり、その基盤として第三者認証は重要な役割を果たしています。