1.リサイクルの3つの手法
プラスチックのリサイクル手法としては、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリサイクル(エネルギー回収)の3つがあります。
- マテリアルリサイクル(MR)
使用済みプラスチック(以下使用済みプラ)をその性質を変えずにプラスチック製品の原料として再利用する手法です。国内で、サーマルリサイクルに次いで利用されています。
- ケミカルリサイクル(CR)
使用済みプラを化学的に分解し、原料に戻して再利用する手法。使用済みプラをプラスチックのまま原料として再利用するMRと異なり、化学的に分解してモノマーや油、ガスに戻し、再度原料として利用する方法となります。
- サーマルリサイクル(エネルギー回収)
使用済みプラスチックを固形燃料にしたり焼却するなどして、熱エネルギーとして再利用する手法です。現在、国内で最も高い比率を占めています。但し、日本の基準と異なり、EU基準ではリサイクルに含まれていません。
2.プラスチックリサイクルの取り組み
リサイクルの目的とメリット
プラスチックリサイクルの目的は、資源の循環的な利用により、石油など限りある天然資源の消費を抑制し、また環境への負荷をできる限り低減することです。(循環型社会形成推進基本法/2000年)
プラスチックリサイクルには、次の3つのメリットがあります。
- ごみの量を減らすことができる
- 石油など限りある天然資源の消費抑制
使用済みプラスチック自体を原材料とすることで、プラスチックごみ量の削減に加えて、石油や天然ガス等の限りある天然資源の消費量抑制に繋がります。
- 二酸化炭素の増加抑制
石油由来原料を用いた新たなプラスチック生産量が減らせることで、製品ライフサイクル全体における二酸化炭素排出量の抑制に繋がります。
政府によるリサイクル推進施策
①「循環型社会形成推進基本法」(2000年施行)
環境負荷の少ない健全な経済の発展を図りながら、持続的に発展することができる社会の実現を目指すことを掲げています。循環型社会の姿を明示し、プラスチックごみ処理の優先順位を法定化(リデュース(発生抑制)→リユース(再利用)→ MR(再生利用)→ CR(再生利用)→エネルギー回収の順)するとともに、国、地方公共団体、事業者及び国民の役割を明確化しました。尚、当該法は日本における使用済みプラ対策やリサイクル対策に関する各法律の上位法に位置付けされています。
(参考)https://www.env.go.jp/recycle/circul/recycle.html
②「プラスチック資源循環戦略」(2019年)
資源・廃棄物制約、海洋プラスチックごみ問題、地球温暖化、アジア各国による廃棄物の輸入規制等の幅広い課題を背景として、2019年に「プラスチック資源循環戦略」が策定され、プラスチックの3R(リデュース、リユース、リサイクル)+Renewable(持続可能な資源)に関する基本原則や重点戦略が示されました。当該戦略の中では、プラスチックリサイクルに関するマイルストーンが明示されています。
(参考)https://plastic-circulation.env.go.jp/about/senryaku
<リユース・リサイクル>
- 2025年までにリユース・リサイクル可能なデザインに
- 2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル
- 2035年までに使用済みプラスチックを100%リユース・リサイクル等により有効利用
<リデュース、再生利用・バイオマスプラスチック(参考)>
- 2030年までにワンウェイプラスチックを累積25%排出抑制
- 2030年までに再生利用を倍増
- 2030年までにバイオマスプラスチックを約200万トン導入
③「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」(2022年)
2022年には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が施行され、プラスチック資源循環の促進を図るため、プラスチック製品の使用の合理化(消費者対象)や、市町村による再商品化(自治体対象)並びに事業者による自主回収及び再資源化(事業者対象)を促進するための制度の創設等について踏み込んでいます。
(参考)https://plastic-circulation.env.go.jp/about
3.日本におけるプラスチックリサイクルの現状と課題
2022年の日本国内での樹脂生産量951万tに対して使用済みプラスチック(以下使用済みプラ)排出量は823万tでした※1。使用済みプラの処分処理方法別にみると、「マテリアルリサイクル(MR)」が180万t(22%)、「ケミカルリサイクル(CR)」が28万t(3%)、「サーマルリサイクル」が全体で510万t(62%)で、使用済みプラの有効利用量は717万t、比率としては87%でした。有効利用率としては、EUの77%(2022年)※2よりも高い数値となっています。
2022年の使用済みプラスチックの有効利用数量と比率
2022年実績 |
数量 |
比率 |
廃プラ総排出量 |
823万t |
100% |
有効利用量 |
マテリアルリサイクル量 |
180万t |
22% |
ケミカルリサイクル量 |
28万t |
3% |
サーマルリサイクル量 |
510万t |
62% |
合計 |
717万t |
87% |
一方で、「サーマルリサイクル」を除いた日本のプラスチックリサイクル率は25%で、EUの27%を下回っています。日本はEUに比べて「サーマルリサイクル」の比率が高い(日本62% vs.欧州50%)ものの、MRとCRによるリサイクル比率はEUよりも低いのが実情です。背景として、前述の通り日本基準とは異なりEU基準では「サーマルリサイクル」はリサイクルに含まれないこと、日本において「サーマルリサイクル」は、「循環型社会形成推進基本法」(2000年施行)の中で戦略的手段と位置付けられてきたこと、などが影響していると考えられます。
紙や缶、プラスチックの中でもペットボトルのリサイクル率については、EUと比較しても高い水準で世界トップの水準と言えますが、プラスチックに関してはまだ日本の取り組みが不十分だと見做されているのが現状かもしれません。そのため、MRとCRによるリサイクル比率を戦略的に高めていく取り組みが今後ますます重要になってきます。
※1 プラスチック循環利用協会 panf1.pdf
※2 日本とEUのプラスチック生産量、総排出量、有効利用量は以下の通り。
日本は使用済みプラの捕捉率と有効利用率はEUよりも高い。
|
日本 |
EU |
①プラスチック生産量 |
9.5百万t |
58.7百万t |
②使用済みプラ総排出量 |
8.2百万t |
32.3百万t |
③使用済みプラ有効利用量 |
7.2百万t |
24.7百万t |
②÷①捕捉率 |
約87% |
約55% |
③÷②有効利用率 |
約87% |
約77% |
日本:プラスチック循環利用協会 panf1.pdf
EU:PLASTICS EUROPE https://plasticseurope.org/knowledge-hub/the-circular-economy-for-plastics-a-european-analysis-2024/
4.ケミカルリサイクルの可能性
循環型社会形成推進基本法(2000年施行)によって定められた、日本におけるリサイクルの優先順位は、前述の通りリデュース(発生抑制)→リユース(再利用)→ MR(再生利用)→ CR(再生利用)→サーマルリサイクル(エネルギー回収)の順とされています。
リサイクルの中で最優先に位置付けられるMRは、使用済みプラをその性質を変えずにプラスチック製品の原料として再利用する特性上、エネルギー消費量が少なく済み、他のリサイクル手法よりもCO2排出量の削減や資源の効率的な再利用に繋がります。一方で、MRにおいては、汚れの程度が酷い使用済みプラはリサイクルが難しい点やリサイクルを繰り返すことで品質が劣化する点など、制約も伴います。そのため、リサイクルの原料として利用可能な比較的綺麗な使用済みプラを選別して取り出す工程が必要となり、人件費や物流費が掛かりコストが大きくなってしまいます。また、異物混入の懸念がある点や、食品接触用途への展開には制約が加わる点、なども考慮すると、MRで優先的に対応できる用途や数量は限られているのが現状です。
その点CRは、使用済みプラを化学的に分解し、原料に戻して再利用する特性上、異物混入の懸念は払拭され、食品接触用途への展開も可能となります。設備が大型になるため設備投資額が高くなりやすい点や、CR由来品の製品市場が確立されていない点などの課題もありますが、MRよりもリサイクル可能となる使用済みプラの範囲が拡がります。今後リサイクルを幅広い用途に拡大し、普及させるためには必須の技術であり、プラスチック資源循環の実現を目指す上では特に注力すべき手法といえるかもしれません。
5.PSジャパンの取り組み
PSジャパンでは、MR、モノマー化CR、油化CRといった3つの手法のリサイクルに取り組んでいます。それぞれの手法の使い分けについては、対象となる使用済みポリスチレン(PS)の内容や性質に応じて、分別・回収・処理コストが最も低く、CO2排出量などの環境への負荷を抑えられる手法を選択することが大切だと考えています。具体的には、家電由来の使用済みPSや分別/回収可能な使用済みPSはMR、或いはモノマー化CRで、それ以外の使用済みPS(MRやモノマー化CRでリサイクルが難しいPS)については両親会社と連携して油化CRでの資源循環スキームを構築していきたいと考えています。
PSのリサイクルに関してお悩みでしたら、まずは気軽にご相談ください。